プータロー
僕が地方から来阪して間もない頃、なかなかに味のあるぼろい文化住宅に住んでいた。住人は一癖ある人だらけで、向かいの部屋は借金地獄の親父だし、そのとなりは宅録専門のやかましいハードロッカーだったし、一つ下は母親に虐待癖の見受けられる家族。でその隣は日曜昼間に大音量で軍歌を流すオッサンだった。
ものすごいシチュエーションだが、本人は結構快適に過ごしていたと思う。僕はそこで専門学校に通い、短いが半年ほどプータローをしていた。
バイト先はゲームセンターだった。そこにも一癖ある人々がいて、ヤクザの娘さんと結婚して市営住宅につつましく暮らしているフリーター、虚言癖のある若ハゲの店員と僕は友達になった。
皆、どうしているだろう。
最近、その光景がひどく懐かしくなって、件のぼろい文化住宅を訪れてみたことがある。もうとっくに無くなっていると思っていたのだが、その建物は昔と変わらずそこに残っていた。そして、僕が以前住んでいた部屋には新しい住人が住んでいるようだった。
ひとしきりデジカメで写真に収めた後、そこを立ち去ろうとすると、偶然にも玄関の階段で大家さんと鉢合わせをした。背の低い、かわいらしい老婆。その風貌から何一つ当時と変わらなかったので僕は驚いてしまった。
大家さんは、当時と変わらない鬼太郎にそっくりの顔で、微笑みながら首をかしげた。
僕は嬉しいような少し寂しいような気持ちになって、笑顔で会釈をしてその場を立ち去った。
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