今回見た夢もえらくはっきり憶えている。その光景を絵にしてみたので、誰も最後まで読まないだろうけど説明してみよう。
ふと気づいたら僕は、カルト宗教に入信しようとしている。人里離れた山村で、入信のための禊(みそぎ)の順番を待ち、長い列に並んでいる。
街頭勧誘にのせられてほんの遊び半分でここまで来たつもりだったが、周りの信者のただならぬ雰囲気にかなり気後れしつつあった。
やがて、信者達の輪がそれとなく僕たちを包囲した様子。逃げ出したい気分でいっぱいだったが、ここで走り出してもすぐに押さえ込まれ、ひどい目に合うかも知れない。僕は僕の行く先を案じながらも列を離れなかった。
そして僕に順番が回ってくる。檜作りの綺麗な部屋に通される。そこでパンツ一丁になる。周りには、湯をたくわえた檜のタライがいくつかと、白髪の老婆が数人いる。湯には子供が浸かっている。あたりは湯気でもやがかかっている。
どういうものだったのかは覚えていないが、禊は終わったようだ。
ゆっくり目を開けると前には男が立っている。痩せていて丸坊主でメガネ。服装は、綿の布に穴をあけただけの簡素なもの。僕も同じ服を身につけている。
「今日から彼がキミのお兄さんで目付役だ。わからないことがあれば、彼に何でも聞くように」誰かから、そう声がかかる。メガネは鋭い目で僕を見下ろした。心の中を見透かされているのではないか。怖くなった。
夜になり、僕はプレハブ建ての施設へ向かう。そしてメガネの案内で生活部屋へ通される。12畳程の薄暗い部屋で、全面にカーペットが敷いてある。煤けた青色で薄っぺらく、裸足で踏みしめるとゴワゴワしている。僕はこれからこんなところに寝なければならないのか。すこしは予想していたことだが、寂しさに包まれる。
あきらめ果てた心持で横になる。数人が寝息を立てているのが聴こえる。見回すと、またもや子供ばかりだ。赤ちゃんもいる。彼らは窓際のカーテンを引きずりおろしてその上で眠っている。正直うらやましい。
まんじりともしないで時間が経つ。ふと手を伸ばすと雑誌のようなものがあったので読んでみる。この宗教が刊行しているもののようだ。白黒印刷で、題名が「愛とセックス」とかなんとか。セックスのHow Toもののようだ。もう一冊、絵本があったのでペラペラとめくってみる。この内容も、どうも性交や子作りを奨励している向きがある。
僕は、この教団のやろうとすることがおぼろげながら見えてくるのを感じた。
この人里離れた山の中で、信者達はどんどん生殖を繰り返して繁栄し、巨大な勢力となって国家の転覆を狙っているのではないか。
教団施設内には学校があり、テレビ放送も運営している。自治体として完全に独立しているのだ。教団は子供達に綿密に洗脳を施し、やがて冷徹な兵隊として日本を征服してしまうかもしれない。
数日後、僕は仲間と炎天下の中農作業をしていた。
畑の真中に立っている掲示板には、「阿含(あごん)の星祭り」のポスターが貼ってある。あの楽しいお祭りは、この教団がやっていたのか。僕はそれをみながらふと呟いた。
「いつやるんだろう。この日ばかりはつらい生活を忘れることができそうだ。楽しみだなぁ」
すると、仲間の一人が言う。
「あれは、外での獲得のためのお祭りさ。僕らはその間、壁の中にこもり、寝食を忘れて働かなきゃならない」
その日の夕方、星祭の準備のための買出しをすることになった。新人の僕たちは10名ほどで街に出る。幾人かの目付け役が同行している。それは、警察に連行される犯人グループのような気持ちである。
久々に見る賑やかな街。マクドナルドの店内でお客がくつろいでいる。洋品店に人がごった返している。僕らはその服装のせいで、人々の目線を集めている。
何かの用事を果たした後、僕らは再び教団施設に戻った。空は黄昏て薄暗い。その場でグループは解散する。
雑魚寝部屋に戻る途中、僕は普段閉じているはずの施設のゲートが開いているのを発見してしまった。…あたりには誰もいない。
ゲートのすぐ先には踏み切りがあり、その先は思い望んでいた外界だ。のどかな水田が広がっている。ぽつぽつと家の明かりが見える。すぐ近くにだ!
僕は石を投げられた猫のように、すごい勢いで走り出した。視界が放射状に流れていく。背後で男達の呼び声が聞こえる。僕はついにゲートをくぐり、施設を抜け出した!
が、次の瞬間ありえないことが起こる。
僕が走っていたあぜ道の先がくるくると巻き取られ、巨大なバームクーヘンのような物体になってこちらに迫ってくる。もうすぐ僕の踏みしめるこの道も巻き取られてしまうだろう。どうすればいいんだ。もうあそこに戻るのはいやだ。夢なら早く醒めてくれ。
(*文中に「阿含の星祭り」と記述していますが、現実のものとは関係がありませんし、揶揄するものでもありません。僕自身どんなお祭りなのかわからないので、きっと駅のポスターなどで知ったものが夢のなかに出てきているだけでしょう)
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