ミュージシャン
ヨドバシカメラで精算の順番を待っていると、前の客らがなかなか奮ったやり取りをしていた。
ちいさなギターケースを背負い、帽子を目深にかぶったどこか挙動不審の若者と、黒のスーツをびっちり着た水商売ふうの女。
「ええのよォええのよォ、あなたはそんなこと気にしなくて」といって女は札束をひらひらさせている。
「そ、そんな。そこまでしてもらったら、僕、そこまでしてもらったら…。なんか、形無しじゃないですか」
男は自分の買い物であるはずのカシオトーンの料金を、彼女が払おうとしているのが気に入らない様子。
「ええの。そんなんええんやから。ええ音楽を考えてくれるのが一番」女は札束を揺らしながら繰り返した。
男はズボンのポケットをまさぐった。「え…、ちゃんと自分で払いますよ。…ん?…あれ?」
ポケットから出てきたのは、千円札が3枚ほど。カシオトーンを買うには全然足りない額だ。
「…あ、あああぁ…。」千円札を見つめながら、男は情けない声を出した。お前最初っから払う気なかっただろう。
結局女が支払を済ませ、カシオトーンが手渡された。すると彼は、
「いや、僕が持ちますんで。重いんで」急に男らしい声で言った。
「うん。ありがと♥」
二人は腕を組みながらゆっくり去っていた。
ああいうのを、ヒモというのだろうか。
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