無題ノート
梅田駅のベンチで、今にも踊りださんばかりの勢いでぐるんぐるんと体を揺すっているおじさんがいた。
周りに音楽は鳴っていないし、ヘッドフォンを着けている様子もない。
代わりに数枚の楽譜を手に持っていた。
おじさんは楽譜を読みながら、頭の中で音楽を鳴らしていたのだ。そうしてその音楽に入り込んで、ノリノリで陶酔している。
よく見ると紅白ストライプのシャツに、パーマが解けかけた明るい金髪、いかにもミュージシャンという風情。小刻みに揺れる膝の上にはバイオリンケースらしきものが凭れている。
こんな雑踏の中で、イメージトレーニングでもしているのだろうか。
彼の体は楽譜の進行にあわせ、ますます大きくうねりはじめる。
僕はおじさんの目論見通りに自分が観客としてそこに佇んでしまっていたことに気づき、道をまちがえたふりをしてその場を離れた。
« No title | トップページ | iPhoneについて »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント