おいら去年に念願の初めての同人誌(一般向け・さわやか純情ねらい)を作ったんだけど、そのストーリーを考える前は「やっぱり同人誌はエロがないとダメだろう」と思っていたので、実は全く別のストーリーをひとつ用意していたのだ。
ただそのストーリーがあまりにも演歌臭くって萌えとかカワイイとかそういう成分がゼロだったので没にしてしまったんだけど、それがさっきハードディスクの奥の方から見つかったので、せっかくだからそれを今回は紹介しようと思う。
さやかさんのおでん
盛り場の場末にひっそりとたたずむ、寂れた居酒屋の扉がガラリと開く。そこには主人公、タカシの姿。メガネ。思い詰めた表情。
店内には誰もいない。さやかという若い女主人が迎える。色気のある、美しい女性。
「いらっしゃい」
「どうも…」
「いつものでいい?」
「ええ、お願いします」
おでんを適当に見繕うさやか。
「どう?小説のほうは」
「ちょっと今、スランプで…筆が止まってます」
「そう…出来上がったら、読ませてね」
「もちろんです!僕、出来上がったら真っ先に、さやかさんに読んでもらおうって、僕、僕ずっと決めてたんです!」
その勢いに気圧されるさやか。
「うん。たのしみね」
「熱燗にする?」
「いえ、今日は、冷で」
「あら、はい、どうぞ。」
ぐびっとコップの酒を一気飲みするタカシ。
「あの、さやかさん」
「なあに」
「あの、今度の週末…」
と、言いかけたとき、ガラリと店の引き戸が開き、常連たちがガヤガヤと入ってくる。舌打ちをするタカシ。
「おっ、タカシ、今日もいるな」
「いますよ、悪いですか!」
「なんだ、機嫌が悪いじゃねぇか」
「そんなことないですよ」
しばらく常連たちとガヤガヤとすごす。閉店の時間になる。
「ありがとうございました。またよろしくね」
店を後にする一行。
と、タカシが常連のひとりに詰め寄る。
「あの、さやかさんって、彼氏とかいるんですか」
「え?いーや、いねぇよ。あいつ、だんなに逃げられてから極度の男嫌いになってな」
「えっ!だんな?」
「なんだあいつ、言ってなかったのかよ。バツイチってやつだ。まだ若いのになぁ」
「そうなんですか…」
「お前、あれだろ」
「い、いや、そういうわけじゃなくって!ただちょっと思っただけで」
「ぶはは!まだ何にも言ってねぇっつーの!せつねぇなぁコノコノォ」
「ちょっと、痛い!痛いですよ」
次の日。
雨が降っている。風もきつい。
「きょうはもう閉めちゃおうかな」
暖簾を仕舞いに行くさやか。
店の引き戸を開けると、そこにはタカシの姿。ずぶぬれ。
「タカシくん!ずぶぬれじゃない。大丈夫?さあ、早く入って」
「どうも…」
タオルを手渡すさやか。
「本当、毎日来てくれるのね」
「う、う、うまいっすから!さやかさんのおでん!」
「うふふ、ありがと」
「熱燗でいい?」
「いえ、今日は、冷で」
「はい、どうぞ。」
ぐびっとコップの酒を一気飲みするタカシ。
「あの、さやかさん」
「なあに」
「今度の週末、ゆ、遊園地でもいかないですか?」
意を決してさやかを誘う主人公。
「あはっ、遊園地?」
「ええ」
「もう長い間、行ってないなぁ・・・」
「そうですか!じゃぁ」
「でもお店があるし」あっさりとかわすさやか。
「でも、昼間は大丈夫じゃ」
「仕込があるの」
「たまには、休めば…」
「お客さん、せっかく来てくれるのに。悪いじゃない」
「だいたい、ほとんど年中無休だし、たまには羽をのばすのもいいんじゃないかと思うんです」
「ごめんね、休める経済状態じゃないの。借金もあるし」
「し、借金」
「そう」
「借金…」
「そうよ、いってなかったけど」
「そ、そんなもの、僕が!」
「…払ってくれるの?…あ」
さやかが振り向きざまにいきなりキスするタカシ。
「ん・・・」
「さやかさん!俺、さやかさんの事が好きだ!」
さやかを不器用な手つきで抱きしめるタカシ。
※※※性交シーン開始※※※
「さやかさん!俺と結婚してください!」
(結婚って・・・)
(若いなぁ)
苦笑いしながらも、事を急くタカシに身をゆだねるさやか。
※※※性交シーン終了※※※
「せ・・・1400万」
「そ、だんながすごい借金つくって逃げちゃったの。すこしずつ返してはいるんだけど」
「・・・」
「それでも、結婚してくれる?」
とたんに無口になるタカシ。
「・・・」
「おかわり、いる?」
「いえ…ごちそうさまでした」
じゃらっと千円札と小銭をカウンターに置き、店を出るタカシ。
それを見送り、切なげな表情を浮かべてため息をつくさやか。
「いくじなし…」
入れ違いに常連たちがばたばたと入ってくる
「おう、さやか!なんかあいつ、ひでぇ顔で歩いてったぜ。大丈夫か?」
「そうなの?」
「ははぁ、さてはまた、借金話を持ちかけたんだろう」
「ん?…えへへ」
「あいつ、お前のこと完全に惚れてるもんな」
「そうかしら」
「ふん…それに、今回に限っては、お前さんもまんざらでもない感じだ」
「・・・」
「男性不信になるのもわからないではないけどな、借金話で試すのはどうかとおもうぜ。で、いったい今回は幾らだっていったんだ?」
「1400万」
「また値上がりしたもんだなぁ!」
「いいのよ…もうこないわよ、きっと」
「やー、それはわからんぜ」
と、店の扉がガラリと勢いよく開く。そこには大きなリュックを背負ったタカシ。必死の形相。
あっけにとられる皆。
「さやかさん!」
「…」
「俺と一緒に、逃げましょう!世界の果てまで!」
一瞬、しんとする店内。そして全員声をそろえ、タカシを指差す。
「それは反則」
以上。こっちを漫画にしなくてよかった…
バービーボーイズの「目を閉じておいでよ」をヘビーローテーションしながら書いてたのを憶えている。
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